やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「大阪でも維新支持急落」で第三極の未来に何を見るか


 正直、大阪を含めた近畿方面の調査については私は素人で、いままで他の担当者が調べてくれた数字を観ながら「ほーーん」と言っているだけの立場だったのですが、いろいろあってこのクソ暑いところで新幹線に乗り漫遊してきました。

大阪 箕面市長選 新人 原田亮氏が初当選 大阪維新の現職敗れる

 直近のイベントは箕面市長選だったんですが、それ以外でも維新が金城湯池であるはずの大阪での首長選で候補者擁立を見送ったり、維新会派から離脱する地方議員の動きが加速していたり、何事か急速に起きている印象が絶えません。

 この中で、グループヒヤリングや戸別調査で出てくる近畿圏住民にも当然温度差があるのも事実で、緩やかな維新支持だった人たちが維新に失望し支持政党なしになる傾向が強くなっているのはとても気になるところです。かといって、いきなり自由民主党支持や立憲民主党支持に鞍替えするわけではなく、大きな選挙がひとたび起きれば、彼らは「消去法」として維新候補に入れる傾向は引き続きあるのだとは思いますが。

 特に問題となっているのはやはり維新における(a)大阪万博(支持32.4%、不支持40.4%)、(b)兵庫県知事・斎藤元彦さんへの処遇(支持18.9%、不支持46.5%)、(c)維新の党組織のガバナンス不全、あたりは近畿に住む有権者からすると維新への期待感喪失にダイレクトにつながっているのは当然とも言えます。

 (a)大阪万博は、大阪万博の開催そのものに対する是非(開催に賛成56.8%)ではなく、大阪万博開催に向けた日本維新の会の国政政党としての立ち振る舞いに関する支持を聞いているものですので、ここで不支持が4割近くに上っているのはかなり由々しい印象です。単純に大阪万博をやるのは構わないが、やり方に問題があると考えている和歌山県民、奈良県民が相当に増えているということの裏返しでもあります。

 同様に、(b)兵庫県知事・斎藤元彦さんに対する考え方についても、維新に求めていたクリーンさをひっくり返す問題が続発していることに加えて、百条委員会における維新勢力の煮え切らなさや、知事への不信任案採決において維新がどうも反対に回りそうだということで斎藤さんを知事にした「製造者責任」として維新にも厳しい声が向けられ始めているということです。ここには、当の兵庫県民だけでなく、広く維新に対する不信感を醸しているトピックになっていて、この問題が引っ張られれば引っ張られるほど維新にとっていいことはなくダメージだけが広がるという意味ではかなり取り返しのつかないことになっている感はあります。

 奈良県知事・山下真さんについても、引き続き問題視する奈良県民の数は多く、山下県政に対する支持こそ下げ止まっているものの危険水域であることは変わりなく、いまのままであれば二期目は黄信号になることは当然とも言えます。

 これらの問題は、やはり地域政党大阪維新と、国政政党日本維新の会の二重構造が分かりづらく、地方組織のほうが国会議員を低く見る傾向があるだけでなく、馬場伸幸さんを代表とする体制が抱える諸問題について適切な指針を出せておらず組織が混乱していることもまた背景にあります。東京15区のビラ問題についてや、公認に関わる事案でも馬場体制に対する不満もかなりくすぶっている一方、幹事長の藤田文武さんが馬場支持で踏ん張っているため混乱の収拾がなかなかつけられないまま体制が維持されていくプロセスもまた混乱の要因になっていると言えましょう。結局、維新の執行部があまり明確な道筋を示さないまま、各問題の処理において手間取っている間に大阪万博や兵庫県知事問題の始末がつけられず能力不足が露呈したことで日本全国における維新に対する期待感がはげ落ちてしまった、というのが実態のようです。

 それでも維新の中には大阪万博さえつつがなく開催できてしまえば、この手の不安感は一掃できるという謎の確信が広がっているのもまた事実で、本来ならカジノが先、万博が後という図式がひっくり返って捻じれたまま強行してしまっている不備もまたあるのではないかと思います。本来ならば、国からも一定の予算が捻出されるところ、大阪府市が不安なく開催せしめるためのロジをちゃんとやらないといけないはずが工期の遅れもあってどのタイミングで一部縮小を宣言するか、また、困惑を持って囁かれている大幅な運営赤字が発生したときどう埋めるのかも含めて時限爆弾のように静かにそのときを待っている形になっているのは残念です。どうせやるからには、きちんとロジを考えて万全の体制で世界に誇れる品質と楽しさで集客したかったはずなのですが。

 それもあって、6月までは「大阪のすべての選挙区で勝利」と目されていた解散総選挙での維新の獲得議席については、いくつかの選挙区で公明党現職に逆転されかねない状況にもなってきました。中には、半年前には12ポイントもの差をつけて圧勝と見込んでいた選挙区で差がほぼなくなってしまったところもあります。特段、当該維新候補や地方組織が弛んでいて活動が低迷しているというわけでもないのですが、あくまで地域柄もあって追い風を受けて有利な選挙戦を当て込んでいた維新陣営としては、その地元でも風が弱まり地力での選挙を余儀なくされると蓄積が乏しく逆転されかねない状況になっている、というのが現状なのかもしれません。

 特に「前回選挙に行った」という投票性向の高い政治関心層の維新離反の動きは大きく、一方で、これらの人たちのメディア接触は投票に行かない人たちに比べて所得が高く、テレビなどをあまり観ない層になっています。「維新は支持してきたけど、すでに一定の役割は果たした」とか「新たな改革の方針が見えない」などの戸別コメントが飛び出してしまうほど、期待感という点ではかなり低落してきた印象があります。

 それでも、維新の象徴としての吉村洋文さんに対する声望は引き続き高く、自由民主党と同じく浪花の進次郎こと吉村さんが良い形で登板してくることで党勢を盛り返そうという動きが出てくる可能性もあります。もっとも、吉村さんに関しては維新府議団や各市議でもどこまできちんと担げるか微妙という声も多く、一度代表でもやったら次はもう特効薬はないというラストエリクサー的な伝家の宝刀の使いづらさにも似た風評が出ているのは心配です。

 なにより、実質的に維新の人事を決めているとまで言われている菅義偉さん、脳の病気の影響であまり多くの判断を依存できない状況になっていることもあり、なんだかんだ路線として非常に上手く回っていた松井一郎さんの路線に回帰しないと立ち行かないのではないかという話も多く出ていたのは気になります。有権者も組織内の人たちもよく見てるなあという気もしますが、明確に維新が党勢拡大のための『次の一手』を見せられることが肝要なのかなと。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.450 大阪でも維新支持急落の事態をあれこれ考えつつ、中国富裕層の経済動向や国連サイバー犯罪条約について触れる回
2024年8月31日発行号 目次
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【0. 序文】「大阪でも維新支持急落」で第三極の未来に何を見るか
【1. インシデント1】中国富裕層の見極めをどうするべきか
【2. インシデント2】ロシア主導による「サイバー犯罪条約」が国連で採択された件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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